介護施設における生産性向上:今日からスタートすべき理由と実践方法
はじめに
介護業界では人手不足が深刻化しており、将来的にはさらに厳しい状況が予想されています。2026年には25万人、2040年には57万人の介護士が不足すると言われています。そのような状況の中で、生産性向上への取り組みは事業継続において必須となっています。
処遇改善加算や生産性向上推進体制加算などの制度もあり、「生産性向上委員会の設置が必要だが、いつから活動を始めるべきか」「人手不足の中でどのように効率化を進めるべきか」といった疑問をお持ちの施設関係者も多いでしょう。
結論から言えば、生産性向上の活動は今日から始めるべきです。
この記事では、なぜ今すぐに始めるべきなのか、どのように進めていけば良いのかについて、具体的に解説します。
目次
なぜ生産性向上活動は今すぐ始めるべきなのか
人手不足の深刻化と時間の確保
生産性向上の活動には一定の人手が必要です。改善活動のチームを作り、課題の見える化を行い、解決策を考え、実行計画を立て、実際に改善活動に取り組むというプロセスには、時間と人員の確保が不可欠です。
現在でも人手不足は課題となっていますが、将来的にはさらに深刻になることが予測されています。つまり、比較的人手に余裕がある「今」だからこそ、生産性向上活動を始めるべきなのです。
人手不足が進行すればするほど、日常業務をこなすだけで精一杯となり、中長期的な改善活動に時間を割くことが難しくなります。そのため、人手不足が深刻化する前に、効率化の仕組みを整えておくことが重要です。
早期の効果実感がモチベーションを高める
生産性向上の取り組みは、実際に始めてみることで初めて効果を感じることができます。活動を通じて小さな成功体験を積み重ねることで、スタッフのモチベーションも高まり、さらなる改善への意欲が生まれます。
実際に委員会を設置し、改善活動に取り組んでいる施設では、具体的な課題解決の方法や参加メンバーのモチベーション維持など、実践的な質問が多く出てきます。このような具体的な疑問があるほど、より的確な解決策を見出せるようになり、実効性のある改善活動につながります。
実践的な業務改善の進め方
生産性向上活動を効果的に進めるには、以下のステップを踏むことが重要です:
- 改善活動の準備をしよう
- 改善活動に取り組むプロジェクトチームを立ち上げ、プロジェクトリーダーを決める
- 経営層から事業所全体への取組開始を宣言する
- 現場の課題を見える化しよう
- 「課題把握シート」等を活用し、課題を見える化し、取り組む課題を洗い出す
- 「業務時間見える化ツール」で業務を定量的に把握する
- 実行計画を立てよう
- 解決する課題を絞り込み、優先的に取り組むべき課題を決定する
- 課題解決のために必要な取組内容や職員の役割を決定する
- 3か月程度の取組期間を目安として、具体的な計画を立てる
- 改善活動に取り組もう
- 大きな成功は小さな成功の積み重ねから生まれるため、まずは小さな成功事例を作り出す
- 改善活動を振り返ろう
- 取組の途中経過を把握し、改善活動におけるゴールを達成するために必要な軌道修正を図る
- 実行計画を練り直そう
- 上手くいった点、上手くいかなかった点の分析を加える
- 優先度が低いと位置付けた課題を含め、取り組むべき改善活動を再検討する
- 1年を目安にPDCAサイクルを回し、改善活動を継続させる
5S活動で実現する職場環境の改善
多くの介護施設で取り組みやすい改善活動として、5S活動があります。5Sとは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の頭文字を取ったもので、職場環境を整えるための基本的な活動です。
5Sの具体的な実践方法
- 整理:必要なものと不要なものを分け、不要なものを処分します。例えば、保存期限が過ぎた書類や使われていない備品などを廃棄します。
- 整頓:「定位・定品・定量」の原則で、必要なものが必要な時にすぐに取り出せるよう、適切な場所に配置します。よく使うものは手元に置く「手元化」も効果的です。
- 清掃:職場環境を清潔に保ち、同時に設備の点検も行います。清掃することで不具合の早期発見にもつながります。
- 清潔:上記3Sの状態を維持し、標準化します。チェックリストの作成や定期的な確認の仕組みを整えます。
- しつけ:5Sの活動を習慣化し、組織文化として定着させます。定期的な研修や振り返りの機会を設けることが重要です。
5S活動は比較的取り組みやすく、効果も見えやすいため、生産性向上活動の第一歩として最適です。ただし、これらの活動も時間と人的リソースが必要なため、人手不足が深刻化する前に始めることをお勧めします。
生産性向上における経験の重要性
アメリカのロミンガー社の調査によると、効率的な学習と成長において、経験が70%を占めるとされています。一方、研修やセミナーなどの形式的な学習は10%に過ぎません。
これは、生産性向上活動においても同様です。どれだけ知識を得ても、実際に活動を通じて経験を積むことが最も重要なのです。現場で「ここをこうすればうまく回る」という暗黙知を形成し、それを言語化・共有することで、組織全体の知恵となります。
そのため、早い段階から実践的な改善活動を始め、小さな成功と失敗を重ねながら経験を積むことが、結果的に大きな成果につながります。これが「今日から始めるべき」という理由の一つです。
活用できる外部リソース
生産性向上活動を進める上で、以下のような外部リソースを活用することも効果的です:
- 厚生労働省のガイドライン:生産性向上に関するガイドラインや業務改善の事例集が公開されています。具体的な取り組み方法の参考になります。https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-information.html
- 専門チャンネルや情報サイト:「介護生産性向上DXチャンネル」のような専門的なコンテンツでは、具体的な改善方法や事例が紹介されています。10分程度の動画で効率的に学ぶことができます。
- 生産性向上ポータルサイト:厚生労働省が運営しているポータルサイトです。業務効率化に役立つさまざまなツールが無料で提供されています。これらを活用することで、記録業務や情報共有などの効率化を図ることが出来ます。https://www.mhlw.go.jp/kaigoseisansei/
- 専門家によるコンサルティング:自施設だけでは解決が難しい場合は、外部コンサルタントの活用も検討してみましょう。第三者視点からのアドバイスが有効な場合もあります。
【無料配布】5S活動実践テンプレート
5S活動を効率的に進めるために、当社では「5S活動実践テンプレート」(Excel形式)を無料で配布しています。このテンプレートを活用することで、5S活動の具体的な進め方がわかり、施設内での実践がスムーズに進みます。整理整頓の基準を明確にすることで、スタッフ全員が同じ認識を持って活動に取り組むことができます。
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専門家による生産性向上支援サービス
生産性向上活動を自施設だけで進めるのは難しいと感じる場合もあるでしょう。当社では、介護施設の生産性向上を包括的に支援するコンサルティングサービスを提供しています。
専門家による伴走支援では、以下のようなメリットがあります:
- 第三者の視点から客観的に現状を分析できる
- 他施設での成功事例を参考にした効果的な改善提案が受けられる
- 改善活動が停滞した際のアドバイスが得られる
- 委員会運営や課題解決のノウハウが習得できる
改善活動の準備から振り返りまで、一貫したサポートを提供し、施設が自走できる仕組みづくりをお手伝いします。
まとめ
生産性向上活動は、人手不足が深刻化する前に、比較的余裕がある「今」から始めるべきです。活動自体に人手と時間が必要であり、人手不足が進行すればするほど、改善活動に取り組む余裕がなくなってしまいます。
また、実際に活動を通じて経験を積むことが最も効果的な学習方法であり、早く始めることで早く効果を実感でき、組織全体の改善文化の醸成につながります。
この記事が介護現場の生産性向上の一助となれば幸いです。皆様の施設における取り組みのご成功をお祈りしています。