生産性向上推進体制加算(Ⅱ)を確実に取得する方法
生産性向上に取り組んでいる事業者様にとって、2024年の介護報酬改定で新設された生産性向上推進体制加算は算定を検討するべき加算です。この加算を取得することで、利用者へのサービス向上と同時に、職員の業務負担軽減や収益アップが実現できます。本記事では特に取得しやすい「生産性向上推進体制加算(Ⅱ)」について、確実に取得するための方法をわかりやすく解説します。
この加算を取得することで、利用者へのサービス向上と同時に、職員の業務負担軽減や収益アップが実現できます。本記事では特に取得しやすい「生産性向上推進体制加算2」について、確実に取得するための方法をわかりやすく解説します。
目次
生産性向上推進体制加算とは
生産性向上推進体制加算は、介護事業所における業務の効率化・生産性向上の取り組みを評価する加算です。上位区分の「加算(Ⅰ)」と「加算(Ⅱ)」の2種類があります。
区分 | 単位数 |
---|---|
加算(Ⅰ) | 利用者1名あたり月100単位 |
加算(Ⅱ) | 利用者1名あたり月10単位 |
例えば、利用者が30名の事業所で加算(Ⅱ)を取得した場合、月に300単位(約3,000円)、年間で36,000円の加算収入が得られることになります。少額に思えるかもしれませんが、これは単なる収入増だけでなく、ICT活用による業務効率化や職員の負担軽減にも繋がるため、中長期的に見るとメリットは大きいでしょう。
本記事では、比較的取得しやすい「加算(Ⅱ)」に焦点を当てて解説します。
加算(Ⅱ)の3つの要件
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)を取得するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること
- 見守り機器などのテクノロジーを1つ以上導入していること
- 1年以内ごとに1回、業務改善の取り組みによる効果を示すデータの提供を行うこと
それぞれの要件について詳しく見ていきましょう。
1. 生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動
厚生労働省が公表している「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」に基づいた改善活動を継続的に行う必要があります。具体的には、生産性向上のための委員会を設置し、3ヶ月に1回以上の頻度で定期的に会議を開催することが求められます。
委員会活動は以下の6つのステップに沿って進めることが推奨されています:
- 手順1:改善活動の準備をしよう
- 手順2:現場の課題を見える化しよう
- 手順3:実行計画を立てよう
- 手順4:改善活動に取り組もう
- 手順5:改善活動を振り返ろう
- 手順6:実行計画を練り直そう
2. テクノロジーの導入要件
加算(Ⅱ)を取得するためには、以下の3種類のテクノロジーのうち、少なくとも1つ以上を導入する必要があります。
- 見守り機器:利用者がベッドから離れようとしている状態または離れたことを検知し、外部通信機能によって職員に通報できる機器。加算(Ⅱ)の場合は、1つの居室への導入でも算定可能です。
- インカムなどの職員間連絡調整機器:インカムやチャットツール(LINE WORKS、Chatworkなど)が該当します。同一の時間帯に勤務する全ての介護職員が使用することが条件です。
- 介護記録作成の効率化に資するICT機器:記録、保存、活用までを一体的に支援する介護ソフトウェアなどが該当します。
最も導入しやすいのは介護ソフトウェアであり、すでに導入している事業所も多いでしょう。
3. データ提出要件
加算(Ⅱ)を取得するためには、業務改善の効果を示すデータを提出する必要があります。具体的には以下の3種類のデータを提出します。
- 利用者の満足度等の評価(WHO-5、認知機能の変化)
- 業務時間及び超過勤務時間
- 年次有給休暇の取得状況
これらのデータは、「生産性向上推進体制加算実績報告システム」にGビズIDを使用してログインし、提出します。
データ提出の具体的方法
加算(Ⅱ)で必要なデータ提出は、以下の手順で行います。
1. GビズIDの取得
まず、データ提出のためには「GビズIDプライム」の取得が必要です。GビズIDには「プライム」と「エントリー」の2種類がありますが、実績報告システムを利用するには「GビズIDプライム」が必要です。
取得方法は以下の2通りです:
- 書類郵送申請
- オンライン申請
2. 利用者の満足度等の評価データの収集
WHO-5(精神的健康状態表)の調査
5名程度の利用者に対して、以下のような項目についてヒアリング調査を行います。
「最近2週間、以下の項目について、あなたの状態に最も近いものに丸をつけてください」
- 明るく、楽しい気分で過ごした
- 落ち着いた、リラックスした気分で過ごした
- 意欲的で、活動的に過ごした
- ぐっすりと休め、気持ちよくめざめた
- 日常生活の中に、興味のあることがたくさんあった
それぞれの項目に対して、「いつも」「ほとんどいつも」「半分以上の期間を」「半分以下の期間を」「ほんのたまに」「全くない」の6段階で回答してもらいます。
認知機能の変化に関する調査
同じく5名程度の利用者に対して、認知機能に関する以下のような項目についてヒアリングします。
例:「身近なもの(眼鏡、入れ歯、財布、上着、鍵など)を置いた場所を覚えていますか?」
- 常に覚えている
- たまに忘れることがあるが、考えることで思い出せる
- 思い出せないこともあるが、きっかけがあれば自分で思い出すこともある
- きっかけがあっても自分では置いた場所をほとんど思い出せない
- 忘れたこと自体を認識していない
この調査の対象者選定にあたっては、自身で回答可能な方を優先することが認められており、利用者と職員の負担軽減に配慮することができます。
3. 業務時間および超過勤務時間の調査
介護職員の労働時間を調査します。加算(Ⅱ)の場合は、テクノロジーを導入したフロアに勤務する職員のみを対象としても構いません。
調査方法:
- 原則としてタイムカードやPC使用時間など、客観的な記録により把握
- 10月の所定総労働時間と総実労働時間を記録
- 初年度は算定開始月(例:4月に開始した場合は4月)のデータを提出
実績報告システム上では、調査対象の人数、対象期間、総業務時間の平均値(小数点第1位まで)、超過勤務時間の平均値(小数点第1位まで)を報告します。
3. 年次有給休暇の取得状況
介護職員の年次有給休暇取得状況を調査します。
- 調査対象:基本的には全ての介護職員(加算(Ⅱ)の場合はテクノロジー導入フロアの職員のみでも可)
- 調査対象期間:前年11月から当年10月まで(10月を基準とした直近1年間)
実績報告システム上では、調査対象の人数、対象期間、年次有給休暇の取得日数の平均値(小数点第1位まで)を報告します。
5. データ提出期限
データの提出期限は、加算算定年度の年度末(3月31日)までです。例えば2025年4月から加算を算定開始した場合、2026年3月31日までにデータを提出する必要があります。
加算取得までのスケジュール例
2025年4月から加算(Ⅱ)を取得する場合のスケジュール例を紹介します。
2025年1月〜3月
- 生産性向上委員会の設置・活動の開始
- ICT機器の要件の確認・導入完了
- 加算算定の申請準備
2025年4月
- 加算(Ⅱ)の算定開始
- 初年度のデータ収集開始(業務時間、超過勤務時間)
2025年10月
- 利用者の満足度等の評価のデータ収集
- 年次有給休暇取得状況の集計開始
※利用者の満足度等の評価については、年度内の任意のタイミングで実施することが可能です。
2026年3月末まで
- 全データの集計完了
- 生産性向上推進体制加算実績報告システムへのデータ提出
よくある質問
Q1. 利用者が5名に満たない場合の調査はどうすればいいですか?
A1. その場合は、対象となる利用者の最大数が調査対象となります。例えば、見守り機器を設置した居室が3室のみの場合は、その3名の利用者を対象に調査を行います。
Q2. データ提出の様式は決まっていますか?
A2. 厚生労働省が提供する調査表がありますが、最終的に実績報告システムにデータが提出できれば、独自の様式を活用しても問題ありません。
Q3. GビズIDプライムの取得に時間はどれくらいかかりますか?
A3. 書類郵送申請の場合、申請から取得まで2〜3週間程度かかります。オンライン申請の場合はより短期間で取得できる可能性がありますが、事前に余裕をもって準備することをお勧めします。
まとめ
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)は、ICT機器の導入と簡単なデータ提出で取得できる比較的ハードルの低い加算です。すでに介護ソフトを導入している事業所であれば、委員会設置とデータ提出の準備をするだけで取得できる可能性が高いでしょう。
この加算を取得することで、単に加算収入を得るだけでなく、生産性向上の取り組みを通じて職員の負担軽減や業務効率化にも繋げることができます。さらに、将来的には加算(Ⅰ)への移行も視野に入れることが可能です。
介護業界の働き方改革が叫ばれる中、ICTやテクノロジーの活用は避けて通れない道です。生産性向上推進体制加算の取得を機に、事業所全体の業務効率化と生産性向上に取り組んでみてはいかがでしょうか。